その15
戦場における魔法の運用法
その4(付与魔法)

 さて、前回までに、いろいろと考察してみましたが……
 特に防御魔法について考えているうちに、致命的な欠陥に近い難点があることに気づきました。
 いや、十人程度の小集団にかけるのなら、別にどうと言うこともないのです。
 しかし、戦場では、いったい何人の兵士たちや騎兵たちが駆け回るのでしょう?
 少なくとも数千、多ければ数万、数十万、時には百万もの人員がひしめき合うのです。
 彼らの全てに、いちいちきっちりと魔法はかけていられないですね。
 そんなことをしたら、あっという間に全ての魔道士が魔力使い果たしてしまいます。
(兵士総数よりも数の多い魔道士が揃っているんでしたら、話も別でしょうが……)

 というわけで、必要になるのが「付与魔法」です。
 エンチャント・アイテムってやつですね。
 それを装備すると、ある魔法が自動的に発動し、装備中はずっと効いている……という、便利なアイテムです。(ゲームなどでは、序盤にはほぼ絶対に入手できないやつですね)

 今回は、それらについて考察してみることにいたしましょう。


武器にかけるタイプ

 武器を強化し、通常よりも攻撃力を高めるための魔法です。
 単に攻撃力がアップするのみならず、いろいろと他の利点も多く、武人たちに重宝されますので、いちばん頻度の高い付与魔法でしょう。
 ただし、それなりの費用がかかりますので、ある程度ふところに余裕のある者でなければ、施術を依頼することはできなかったでしょう。

切れ味を強化する
 単純に、武器としての機能を高めるものです。
「短剣」を「短剣+1」に強化するようなものですね。
 このタイプのエンチャントは、比較的低レベルの魔道士でも可能です。
 熟練した付与魔道士であれば、一気に「+5」とかにすることも可能でしょう。
 また、くり返し処置して、どんどん「重ねがけ」していくこともできます。
 上限は特にありません。
 が、しかし、だからといって「錆び刀+108」なんてものを作るのは馬鹿げた話でしょう。

 調子に乗って幾度も重ねがけを試みていると、施術をしくじって武器そのものを駄目にしてしまう可能性もありますので、普通はせいぜい「+3」までであることが多いようです。

副次的な効果を与える
 斬りつけると、その部分が凍り付いたり、燃え上がったり……と、そういった副次的なダメージをも与えることができるように加工する魔法です。
 けっこう高度な魔法となるので、施術可能な魔道士はごく限られた者のみとなります。
 また、加工する元の武器も、それなりのレベルの品でなくてはなりません。
 どんな優れた魔道士でも、「なまくら刀」を「炎の剣」にすることなど、できるはずもないのですから。

 元の武器そのものの仕入れ値も高く、施術の下準備や、加工に要する時間もかかる。
 そして、当然ながら消費する魔力も膨大で、長期にわたる著しい精神集中による術者の疲労も激しい。
 ……というような次第にて、自然と施術料のほうもやたらと高額なものとならざるを得ません。
 これでは、注文する立場の武人たちとしても、そう「ほいほい」と頼むわけにも行きませんから、このようなエンチャントを受けた品は、とても数が少ないのでした。

特定の相手に効果が強い
 ドラゴン・スレイヤーや、デーモン・スレイヤーなど、特定の種族や属性を有する者に、特に強力なダメージを与えるべく、そのような魔法効果を与えるものです。

 このような加工のできる魔道士は、超一流レベルの者に限られます。
 しかも、この施術のためには、絶対に必要なある種の「品物」があるのですが、それが極めつけに入手困難なものなのです。
 どういうことかと言いますと……
 ドラゴン・スレイヤーを作るためには、「ドラゴンの血」もしくは「ドラゴンのよだれ」が
 デーモン・スレイヤーを作るためには、やはりその種の「悪魔の体液」が、
 どうしても必要なのです。

「ドラゴン・スレイヤー作って欲しいのか? わかった。ではドラゴンの血を採ってこい。そうしたら、いくらでも作ってやるからな。頑張ってこいよ〜!」

 などと言われても、そうそうおいそれと入手できる道理もありませんしね。(^^;;;

 ただし、シャロンの場合は、自分の旦那さんや息子がドラゴンなので、けっこうほいほいと作ってしまっているようです。(^^;;;

長持ちするようにする
 研がなくても切れ味が鈍らないようにする
 決して錆びないようにする
 人を斬っても血が付かないようにする

 などなど、手入れを楽にする程度のエンチャントです。

 先に述べた高度なエンチャントの「ついで」にかけておくことが多いようですが、これだけを施術するということも、たまにはあるようです。(記念品的なものなどに)

 この程度のエンチャントなら、「魔道士」の称号を許された者であれば、ほぼ誰でも可能です。
 ただし、時代が下がってくるにつれ、この程度の付与魔法すら行い得ない「魔道士」も現れるようになりましたが。

 この魔法は、武器のみならず、防具やその他のアイテムにもかけることができますので、魔法王国期にはごく一般的に広く使用されておりました。
 食べ物にかけておくと、腐りにくくなる……というような効果もあったようです。


防具にかけるタイプ

 基本的には、一時的な防御魔法に準じた効果を与えるものが多いので、それらについては割愛します。
 ここでは、「付与魔法」でしかできない特殊加工を取り上げることにしましょう。

強度・耐久度を高め、自己修復能力を与える
 防具としての効果を高める加工
 更に、長持ちするようにも追加加工
 ここまでは一般的ですが、アル・レンのごとき非常に優れた施術者の手によれば、防具にある程度の「自己修復能力」までも与えることができました。

 世界に一点しかないような稀少・貴重な鎧などには、そのような加工がなされていることが多いようですが、自己修復能力を与えるためには、やはり「ドラゴンの血」が、しかも「竜王クラス」以上の「偉大なドラゴンの血」が必要不可欠で、その入手困難度は筆舌に尽くしがたく、その制作は生やさしいものではありませんでした。(それ故にどうしても「一点もの」となったのでしたが)

 コル・ヒュドレの着用している、アル・レン作の「水竜の甲冑」一式には、この種の恒久保護魔法がかかっています。
 その名の通り、ある「水竜」の血が使われたのでしたが……
 そのエピソードについては、いずれ「外伝」という形でご紹介したいと思っております。(^^)

 普通は量産など、できる道理もないはずなんですが……
 シャロンの場合は、自分の旦那さまが「竜王」なものですから、「竜王のウロコ鎧」なるものをかなりたくさん作成し、村人に気前よく分け与えちゃったりしているようです。 (^^;;;
(竜王のウロコで鎧を作れば、別に血など混ぜてややこしい施術をしなくとも、同様の効果が発動するのでした)

治癒効果を発揮させる
 それを着用、もしくは装備していると、どんどん体力が回復し、多少の怪我など治ってしまう……という、まことに素晴らしい効果を与える魔法です。
 
 当然ながら、超絶的な技量を持つ魔道士でなくば、このような結構な品は作れません。

 また、やはり「ある種の品」が、施術以前の問題として必要となるのでしたが……悪いことに、その品が何であったのか、その秘法が魔法王国の滅亡とともに散逸し、今では完全に失われてしまっております。

 一説によると、「三本角の人間の生き血」であるとか、「その真ん中の角の髄液」であるとか、ギャメルにとってはまこと迷惑千万な伝説も、一部の魔道士たちの間に語り継がれているようです。

魔法を弾き返すようにする
 表面に魔法的な鏡面加工を施し、敵方の攻撃魔法を反射させる効果を与える魔法です。

 うまく加工して行かないと、加工魔法そのものが反射されてしまいますので、かなり難易度の高い術であるといわれております。
 強度を高める術や、長持ちする術など、他の術をかけ終えた後、一番最後にこの加工を施すようにします。
(順番を間違えると、他の施術が不可能になりますので)


  

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